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CLL 患者さんの声に
耳を傾けて

(インタビュー:2021年5月、記事内容一部修正:2022年8月)

CLL(慢性リンパ性白血病)患者・家族の会 代表 齋藤治夫さん CLL(慢性リンパ性白血病)患者・家族の会 会計・ホームページ担当 麻生弘さん CLL(慢性リンパ性白血病)患者・家族の会 代表 齋藤治夫さん CLL(慢性リンパ性白血病)患者・家族の会 会計・ホームページ担当 麻生弘さん

慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia;CLL、以下CLL)は発症後の進行が緩徐であるため、多くの場合、しばらくは定期的なwatch&wait(経過観察)の期間が続く。
また、日本では比較的まれながんであり、患者数が少ないのもCLLの特徴だ。CLL患者・家族の会は、病気と長く向き合う中で生じるさまざまな不安に寄り添い、また同じ疾患の患者同士でさまざまな情報を共有するため、2020年6月に発足した。CLL患者である代表の齊藤治夫さんと、役員の麻生弘さんに、CLLと診断されたときの心境や患者会設立の経緯などについてお話をうかがった。

  • ※この記事で紹介する患者様の症例について、全てのCLL 患者様が同様の経過をたどるわけではございません。
    治療に関して気になることがありましたら、医師へご相談ください。

診断直後の混乱と、watch&wait 期間中の
もやもやとした気持ち

治療しない病気と長くつき合っていくのはとても不安なもの 治療しない病気と長くつき合っていくのはとても不安なもの
─おふたりが最初に医療機関を受診されたきっかけを教えてください。
麻生 私は毎年定期的に健康診断を受けております。変化があったのは2017年頃でしょうか。白血球の値が高くなり、2018年に献血会場で検査技師の方に、「白血球の値が驚くほど高いので一度きちんと調べたほうがいい」と勧められました。健康診断でも年々数値が上がり、そこでも受診を勧められたので、自覚症状は何もなかったのですが、2019年に近所の内科クリニックで検査をしてもらいました。そして大学病院の血液内科を紹介され、そこで慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia;CLL)と診断されました。
齊藤 私は、2006 年に夫婦で人間ドックに行ったのがきっかけでした。ホテルでの1泊2日のプランで、おいしいものを食べに行こうという軽い気持ちで受けたのですが、最後の問診で体調などを何度も確認されたうえで、「白血球がすごく多いので早急に血液内科を受診してください」と言われました。
 翌日、会社の近くの病院で血液内科を受診したところ、1週間の検査入院となり、MRIやCTを撮ったり、骨髄液を採って調べる検査などを受けたりして、CLLに間違いないと言われました。
─ CLLという診断名を聞いたときは、どのように受け止められたのでしょうか。
麻生 診断名を聞いた瞬間は、意味がよくわかりませんでした。先生が病気の特徴や診察の計画を細かく説明してくれましたが、こちらはとにかく何か大変な病気なのだと思って混乱してしまい「病気なのに治療してくれないのですか。あとどれだけ生きられるのですか」と問い詰めてしまいました。先生は「完治しない病気ですし、薬のせいでかえって体がダメージを受けることもあるので、症状が出るまでは治療はしません」、「この病気は、症状が出たとしてもほとんどの方が治療で寛解し、長生きできるので大丈夫ですよ」ときちんと答えてくれましたが、それでもやはり、「ほとんど」ということはそうではない場合もあるのだろうかと、不安な気持ちをもったまま帰宅しました。
齊藤 白血病と聞いたとき、若いころに流行ったテレビドラマの印象から、まず「治らない病気」というイメージが浮かびました。麻生さんと同じで、私もはじめに「何か治療は行わないのですか」と聞きましたが、「治療はしません。また1 カ月後に血液検査するので来てください」との返事でした。インターネットでも検索したのですが、がんの専門病院の公式なウェブサイトから怪しげなページまで情報が玉石混交で、正しい情報の取捨選択は困難でした。
齊藤治夫さん 多彩な資格 齊藤治夫さん 多彩な資格

2008年1月から開始した1回目の化学療法を終え、2009 年に社会保険労務士の資格取得を目指して勉強を始めた齊藤治夫さん。2017年に合格をつかみ取りました。その他、両立支援コーディネーター、ファイナンシャル・プランニング技能士、キャリア・デベロップメント・アドバイザーなど多彩な資格を取得しています。

同じ病気の人同士で集まれるのは心強い

─診断を受けた後、watch&wait の期間はどのような気持ちで過ごされていましたか。
齊藤 落ち着いて自分の状況を確認しなければならないと考え、まず他の医療機関にセカンドオピニオンを求めました。セカンドどころか4カ所の医療機関にかかり、結局すべてのところで同じ診断を受けたため、自分はCLLであるとしっかり納得することができました。
次に、watch&waitをどの先生の下で受けるかを決めようと、血液の病気の患者会であるNPO 法人「血液情報広場 つばさ(つばさの会)」が開催していたセミナーに参加して、そこで講演されていた先生の医療機関で診察を受けることに決めました。
麻生 担当の先生に、「あとどれくらい生きられるのか教えてください」と質問したところ、「麻生さんの場合は進行が早いタイプではないと思うので、CLLよりも、老後を迎えた後に別の病気で亡くなる可能性のほうが大きいと思います。治療薬も進化していますから、長くwatch&waitをしているあいだに、治る病気になるかもしれませんよ」と言われ、しばらくは生きていられるし治るかもしれないと希望がもてるようになりました。
 そしてつばさの会が長崎県でフォーラムを開催することをインターネットで知り、近いから日帰りで行ってみようと夫婦で参加しました。そこでも治療薬の進歩で治る病気になるかもしれないとの専門家のお話や、同じCLL患者である齊藤さんのお話を聞くことができました。その会場で齊藤さんに挨拶をしたところ、「CLLの患者会が必要だと思うので、立ち上げに協力してください」と誘っていただいたのです。同じ病気の人同士で集まれるのは心強いですし、夫婦共々晴れ晴れした気分で帰途につきました。
2021年春にカフェを始めた麻生弘さん 2021年春にカフェを始めた麻生弘さん

妻の希望もあり、2021年春にカフェを始めた麻生弘さん。コロナ禍の影響で、現在は週末のみ営業をしています(写真左)。
妻とともに15年ほど前から集めているフィギュアは、今では2部屋分もあります(写真右)。

─ 齊藤さんは、1年半余りのwatch&waitの後、治療に入られています。治療開始が決まったときは、どのような心持ちでしたか。
齊藤 白血球の数値が上がっていくスピードなど、あらかじめ病気の進行が加速し始めるサインについて先生と話し合っていたので、治療にはスムーズに入ることができました。先生が丁寧に治療法を説明してくださったおかげで、提示された治療法を納得した上で選択することができました。
 治療せずにwatch&waitが続くのは、本人にとっては非常に不安なものです。ですから治療に入ることが決まったときは、むしろ「不安から解放される。よしやるぞ」という気持ちでした。人は漠然とした不安よりも、対象が定まりなすべきことが決まっているときに直面する恐怖のほうが、向き合いやすいのだと思います。
1人で考え込まず孤立しないようつながりに加わって 1人で考え込まず孤立しないようつながりに加わって

自分の人生を
自分で選んでもらうために

─「CLL(慢性リンパ性白血病)患者・家族の会」立ち上げの経緯について教えてください。
齊藤 生涯の主治医との出会いの機会をもらったつばさの会でも、CLLの患者は本当に少なく、独立したテーマとして取り上げられることはあまりありませんでした。それでも全国に患者はいるはずだと思い、つばさの会でCLL患者として講演しているうちに、麻生さんをはじめいろいろな人との出会いがあり、やはり仲間はいたのだと実感できるようになりました。ただ、まれな病気の患者会を立ち上げる必要性は感じても、自ら手を挙げて先頭に立つことにはためらいがありました。悶々としていたところに、つばさの会理事長の方から「顧問を引き受けるからCLL患者会を立ち上げましょう」と言っていただき、つばさの会の新潟県でのセミナーで講演された先生がその場で顧問医を買って出てくださったことで、心が決まりました。
ロードバイクロードバイク

50歳を迎える1カ月前からロードバイクを始めました。タイムトライアルレースに参加したり、友人とツーリングに出掛けたりしています。5年ほど前には、連休を利用して2週間のスペイン・サンティアゴ巡礼の旅へ。約800kmの道のりを自転車で走破しました。

─ 同じ悩みを抱えるCLL患者の方々にどのようなことを伝えたいですか。
齊藤 私が患者さんに最も大切にしてほしいことは、患者さん1人1人が自己決定できるようになることです。担当の先生に言われたからではなく、自分の人生を自分で選んでもらいたいのです。そのために、患者会でさまざまな立場の人の意見を聞いて、自分の考えを確立してほしいと考えました。実際に、誰にも聞けなかったり言えなかったりしたことを患者会で話すことで、心の中が整理できたという人や、再受診できるようになったという人もいます。
 先輩患者や、診断を受けたばかりの人、これから治療を始める人など、年齢や罹病期間など背景もばらばらな人たちですが、想定していた以上によいコミュニケーションがとれていて、患者会を立ち上げてよかったと安堵しています。
麻生 自分の経験をきちんとお伝えするために、私自身も心がけていることですが、定期検診は必ず受けて、とにかく自分の変化を見逃さないように気をつけてほしいです。CLLは比較的進行がゆっくりした病気ですが、リヒター症候群と呼ばれる進行の早いタイプの病気に転換してしまうことなどもあります。
 孤立して自分1人で考え込んでしまうこともよくありません。生死と向き合い、治療をどう選択するか、セカンドオピニオンをどうするか、そのような話ができるように、患者同士のつながりに加わってほしいと思います。
─ CLLの患者さんの家族もさまざまな思いを抱えていると思います。家族の方々に対しては、どのような思いをもっていますか。
齊藤 長期的に付き合わなければならない疾患において、ご家族は患者本人とは異なる悩みをおもちですから、患者会にご家族が来て悩みなどをお話しするのもよいと思っています。それはご家族にとって心の支えになるでしょう。また、ご家族が患者会に出ることで、患者さん本人が参加しやすくなることもあると思いますから、ご家族の参加も歓迎しています。
麻生 患者さんとそのご家族と一緒にお話しをする機会があり、その際にご家族の方が「家族で信頼し合っていても、この病気は患者同士でないとわからないこともあると思います」とおっしゃったのです。ご家族も患者さんも不安が多く、ご家族だけで抱え込んでしまうのは大変なので、どうか患者や家族同士のつながりを大事にしてほしいと思います。

もっと多くのCLL患者さんとともに、
顔の見える連帯を深めたい

─患者会の、今後の展望をお聞かせください。
麻生 役員をもっと増やさなければ手に負えないくらいに、会員が増えてほしいと思っています。同じ病気で苦しみ悩んでいる人に少しでも多く参加してもらい、苦しみや悩みを共有し、孤独感を解消できるよう活動していきたいですね。大勢でわいわいと集まれる環境が戻ってくれば、泊まりがけの懇親会などで親睦を深めて、顔の見える連帯を深められればきっと楽しいだろうと思います。
齊藤 これまでも看護師さんやキャリアコンサルタントの方などに、病気に対する前向きな心のもち方のような内容のお話をしてもらっていましたが、今後もさまざまな立場の方と連携していきたいと思っています。例えばリハビリテーションの観点から、医療セミナーの講演の合間や懇親会などで、「ちょっと体を動かしましょう」とみんなで一緒にできる「CLL体操」のようなものをつくってみるのも面白いかもしれません。