専門医が答えるFAQ


災害医療センター 血液内科 医長
関口直宏 先生
原発性マクログロブリン血症(WM)、リンパ形質細胞リンパ腫(LPL)になると、どんな症状が出ますか?
診断を受けて、これから先のことが不安で動揺しています。今後どうなるのでしょうか?
セカンド・オピニオンをどう活用したらよいですか?
どうして原発性マクログロブリン血症(WM)、リンパ形質細胞リンパ腫(LPL)になるのでしょうか? 生活や食べ物などは関係していますか?
治る病気ですか? 再発したらどうなるのでしょうか?
まわりの人に、うつることはありますか? 子どもに遺伝する可能性はありますか?
治療には入院が必要ですか?
仕事を続けたいと考えています。治療しながら働いている患者さんはいますか?
趣味のスポーツを続けてもよいですか?
日常生活で気をつけるとよいことがあれば教えてください。また、治療中や治療後に食べ物の制限はありますか?
抗がん剤以外で治る方法はありますか? 民間療法は信じてもいいですか?
家族はどのようなことに気をつければよいでしょうか?
原発性マクログロブリン血症(WM)、リンパ形質細胞リンパ腫(LPL)になると、どんな症状が出ますか?
- WMの臨床症状はたくさんありますが、大きく3つに分けると症状を理解しやすいと思います。
- 1つ目の症状は「血球減少、骨髄不全(こつずいふぜん)」です。骨の真ん中にある、骨髄という臓器で、血液の赤ちゃんである造血幹細胞から、職業を持った大人である血球(白血球、赤血球、血小板)に成長します。その後、血球は血液の中に入って、全身を回ります。WM/LPLの患者さんでは、骨髄の中でがん細胞がたくさん増えてしまいますので、正常の血球を作ることができなくなります。これを「血球減少、骨髄不全」と呼びます。正常の白血球が減ってしまうと、肺炎などの感染症にかかりやすくなります。酸素を運ぶ赤血球が減ってしまうと、いわゆる「貧血」になります。めまい、立ちくらみ、頭痛、だるさ(全身倦怠感)を認め、さらに増悪すると呼吸不全、心不全を伴います。また、血小板という血を固める細胞の断片が減ってしまうと、命を脅かす出血を伴う可能性があります。
- 2つ目は、がん細胞が作る大量のIgM(免疫グロブリン)による症状です。IgMは血液中では免疫グロブリンが5つ結合した巨大なマクログロブリン(巨大なことをマクロといいます。巨大な免疫グロブリンという意味でマクログロブリンと呼びます)を作ります。このマクログロブリンが血液にたくさん貯まると、脳の血流が悪くなり、認知症のような症状を起こしたり、昏睡状態(こんすいじょうたい)に陥ったりします。これを過粘稠度症候群(かねんちゅうどしょうこうぐん)と呼びますが、さらに増悪すると命を脅かす重篤(じゅうとく)な状態になります。また、このマクログロブリンに血小板や凝固因子という血を固める物質がくっついてしまうことがあり、眼底出血や、脳出血などを引き起こすことがあります。また、がん細胞が作るIgMが赤血球にくっついてしまい、赤血球を溶かしてしまうことがあります(溶血といいます)。通常の溶血は体温と同じ37℃で起こりますが、WM/LPLの患者さんでは、32℃で溶血がもっとも進む、寒冷凝集素症というタイプの溶血を起こすことがあります。とくに寒い冬には、鼻、手指、足指などの冷えやすい部位を介して、溶血が進むことによって貧血が進行します。また、細い神経などにIgMがくっついて、しびれや、感覚が鈍くなるといった末梢神経障害を起こすこともあります。
- 3つ目は、がん細胞が作るIgM以外の炎症を引き起こす物質による症状です。この炎症物質により、だるさ、発熱、寝汗、痩せてくるといった症状を引き起こします。
- また、一部の患者さんでは、リンパ節にがん細胞が浸潤してリンパ節腫大を合併します。
診断を受けて、これから先のことが不安で動揺しています。今後どうなるのでしょうか?
- 「血液のがん」という診断を受けると誰でも不安になるものです。大事なことは、病気についての説明をきちんと受け、がんと向き合うことです。WM/LPLではQ1にも記載したような症状を伴う、いわゆる「症候性WM/LPL」のみが治療を必要とします。したがって、症状を伴わない無症候性WM/LPLを鑑別する必要があります。また、WM/LPLは悪性リンパ腫に分類されていますが、低悪性度リンパ腫という比較的ゆっくりと進行するリンパ腫に相当します。落ち着いて病気を受け止め、病気を理解し、がんと向き合うことが大切です。
セカンド・オピニオンをどう活用したらよいですか?
- 「セカンド・オピニオン」とは、主治医とは異なる病院の医師に、診断の正確性や治療に関する第三者の意見を聞くための診察のことです。この診察は保険診療とは異なる自費診療となります。セカンド・オピニオンを上手に受けるには、主治医の先生に、セカンド・オピニオンを受ける希望があることをしっかりと伝え、診療情報提供書を記載してもらう必要があります。セカンド・オピニオンに行きたいと言って気分を悪くする主治医の先生はあまりおりませんので、きちんと意向を伝えるのがよいでしょう。しかし、実際に治療を受ける病院は、自宅と病院との距離などを考えたうえで、確実に通える病院を選ぶことをお勧めいたします。
どうして原発性マクログロブリン血症(WM)、リンパ形質細胞リンパ腫(LPL)になるのでしょうか?
生活や食べ物などは関係していますか?- WM/LPLは悪性リンパ腫という「血液のがん」です。ヒトのからだを作っている細胞は60兆個あるといわれていますが、ヒトが成長し、生命を維持していくためには、常に細胞が増えたり、老化した細胞が寿命を迎えていて、一定の数に保たれています。細胞が1個から2個、2個から4個に増える際には、人間の設計図である「染色体や遺伝子」を2倍にコピーしてから、細胞が分裂します。しかし、一定の確率でコピーミスが起こります。このコピーミスが染色体や遺伝子の致命的なところに起こると、無限に増殖してしまう細胞ができてしまう、いわゆる、「がん」を発症します。WM/LPLの患者さんでは、MYD88という遺伝子に傷がつくことで、がんになると考えられています。
- また、生活習慣、食べ物、ストレスなどによって直接的にWM/LPLになるということはありません。
治る病気ですか? 再発したらどうなるのでしょうか?
- 残念ながら、現在の医療においてもWM/LPLは治る病気ではありません。病気と上手く付き合って、元気に長く生きられることが治療目標です。また、日本においてもWM/LPLに対して使用できる薬剤が増え、様々な薬剤を用いた治療ができるようになりました。仮に再発をしたとしても有効性が期待できる治療方法が増えていますので、頑張って病気と向き合っていきましょう。
まわりの人に、うつることはありますか? 子どもに遺伝する可能性はありますか?
- Q4にも記載いたしましたが、WM/LPLは、自分の細胞が細胞分裂をする際に、コピーミスが起こることが原因で、自分の細胞自身が「がん化してしまったもの」です。ですから、からだの外からやってきた感染症とは異なり、まわりの人にうつることはありません。また、子どもに遺伝することもありません。
治療には入院が必要ですか?
- 化学療法を行う場合には、最初は入院して行うことが一般的です。これは入院してしっかりと体を休めること、副作用をマネジメントする必要があることに加え、疾患を十分に理解して頂くためでもあります。また、化学療法が進むうちに、外来での通院治療が可能になることが一般的です。
仕事を続けたいと考えています。治療しながら働いている患者さんはいますか?
- Q7にも記載いたしましたが、化学療法の初期は入院が必要になる場合が一般的です。外来での通院化学療法中に働けるかどうかは患者さんの年齢、病状や副作用の程度によって、患者さんごとに相談して決めています。入院が好ましい状況にもかかわらず外来で化学療法を行うと、肺炎などを合併し、結局、入院が必要になる、化学療法が定期的に行えなくなる、といった悪影響をおよぼします。化学療法が終了し、外来での定期的な診察のみとなった場合には、多くの患者さんは働けるようになります。しっかりと化学療法に専念する方が、早く仕事に復帰できることもありますので、焦らずじっくりと病気と向き合うことが必要です。
趣味のスポーツを続けてもよいですか?
- スポーツなどの趣味を継続することで、よい気分転換が得られ、しっかりと治療を受け続けることができます。ただし、激しいスポーツを行って、ケガをすると治療が遅れてしまうことがあります。また、感染症を合併しやすい状態の時にはお勧めできません。IgM値が高い患者さんが、暑い日にスポーツを行いすぎて脱水になると血液がドロドロになって、過粘稠度症候群を起こすこともあります。病状に応じて、主治医の先生に相談するのがよいでしょう。また、スポーツを行うことが望ましくない状況の時には、スポーツ以外の趣味を適度に行うことをお勧めいたします。
日常生活で気をつけるとよいことがあれば教えてください。
また、治療中や治療後に食べ物の制限はありますか?- 日常生活で気を付けることは、手洗い、うがい、外出時にはマスクをする、などの感染予防です。また、規則正しい生活、しっかりと睡眠をとることは免疫力を保つうえでも大切です。食べ物に関しては、制限をしていない患者さんの方が多いですが、誰が考えても、おなかを壊してしまいそうな辛い物や、「生もの」をたくさん食べることは避けた方が無難です。温泉や公衆浴場には、肺炎を起こすレジオネラ菌がいる場合がありますので、注意が必要です。
抗がん剤以外で治る方法はありますか? 民間療法は信じてもいいですか?
- 現在の医療においては抗がん剤(化学療法)による治療をお勧めいたします。本邦で行う保険診療は、十分な治療効果が期待できるからです。民間療法にはいろいろあります。免疫療法などは、日本の医療保険制度が適用されないことが多く、また、WM/LPLに効果があるかを検証されてはいないことが一般的です。免疫力を高めるサプリメントもありますが、どこまで効果があるかは明らかでないので、私自身はお勧めはしていません。マッサージを行うことがリラクゼーションに繋がることは言うまでもありませんが、出血しやすい状況の時には、マッサージで筋肉内出血を起こすこともあります。民間療法に関しての詳細は、主治医の先生に相談してみることをお勧めいたします。
家族はどのようなことに気をつければよいでしょうか?
- ご家族にお願いしたいことは、十分に時間をとって、患者さんがどのように病気とうまく付き合っていくか、を一緒に考えてあげることです。過保護になり過ぎることは逆効果です。共感的な態度で患者さんを支えてあげてください。病院での診察の際には、ご家族が同席することで、主治医の話の内容もより正確に理解できるようになりますし、一緒に質問をすることもできます。ご家族が一緒に病気と闘ってくれることで、患者さんは安心しますし、治療を受けるモチベーションに繋がることが多いです。また、高額療養費制度の申請、生命保険の受領手続き、介護保険の申請などといった事務手続きも必要なので、是非、手伝ってあげてください。病気になったことをきっかけに、今後の自分のこと、仕事のこと、ご家族のこと、などをいろいろ話し合っておくとよいと思います。